タイトル:Badger’s Parting Gifts (日本語版タイトル:わすれられないおくりもの)
文/絵:Susan Varley
原作出版国:UK
初版年月日:1984年1月1日
購入できる絵本の種類:ハードカバー/ペーパーバック →ショップで商品を確認
あらすじ
いつも頼りになるアナグマさんは、もうおじいさん。何でも知ってるアナグマさんは、自分がもうすぐ死んでしまうこともわかっています。アナグマさんは自分が死ぬことはこわくありませんでした。ただ、自分がいなくなったあと、きっとみんなが悲しむことを思ってつらかったのです。そんなアナグマさんがみんなにのこした「お別れの贈りもの」とは――
レビュー
「死」というものを正面から見つめた、真摯な作品
この作品の主人公はアナグマ(badger)です。アナグマは日本ではあまりなじみがありませんが、欧米ではとても親しまれている動物で、絵本にもよく出てきます。もうすっかり年をとったアナグマのおじいさんが死を迎える――そんなところからこの絵本の物語ははじまります。明るく楽しい話ではありません。けれども、決して暗く悲しい話ではありません。
死を迎えようとするアナグマが考えるのは、ただ友達のことです。若いモグラもカエルも、アナグマの大切な友達です。だから自分が死んでしまったあと、友達の彼らがどんなに悲しむか、それが心配でならなかったのです。けれどもアナグマは亡くなります。ただ一言、短い手紙を残して。
残された友人たちがどのようにしてアナグマの「死」に向き合い、どのようにして乗り越えてゆくのか――それがこの絵本のテーマです。
ちなみにこの作品では死を迎えるばかりの老人であるモグラが、自分よりずっと若いモグラやカエルを「友達」と言っています。これは日本人の我々からすると少し違和感がありますが、欧米ではごく普通の感覚のようです。私は大学時代、東欧から来た留学生とつきあっていたのですが、あるときの会話で彼がごく当たり前のように「70歳の友人」という言葉を口にしていたのが印象的に残っています。
どこまで穏やかで、どこまでも静かな物語
アナグマが死んでしまったあと、季節は冬を迎えます。アナグマを喪った友人たちは悲しみに暮れながら、アナグマと過ごした日々の思い出を語り合います。――アナグマがどんなに親切にしてくれたか、自分たちに何を教えてくれたか。やがて春になり、雪がとけるのとときを同じくして、彼らの悲しみもようやく癒えます。
春の日。友人の一人であるモグラが、アナグマと最後に会った丘で、アナグマからの「おわかれの贈り物」について述懐する場面で絵本は終わります。アナグマからの「おわかれの贈り物」とは何だったのでしょう? それをここで言葉にするのは簡単ですが、少し嘘になってしまう気もします。それはきっと、物語を最後まで読んだ人にしか、正確にはわからないものだと思うからです。
初めてこの作品を読み終えたとき、私の頭の中に、子供のころ幼稚園で歌った「切手のないおくりもの」が流れました。そうしてしんみりと絵本を閉じながら、あのころ理解できなかった往年の名曲が伝えようとしていたことが何となく理解できた……そんな気がしました。
小さな子供のために描かれた「大人の絵本」
この作品の中で私は、アナグマがまさに死を迎えるシーンが好きです。ロックチェアに揺られてうつらいでいたはずのアナグマが、気がつけば地中のトンネルを歩いていて、やがて杖なしで走れるようになり、魂が体から離れていく――アナグマが天国にいくときはきっとこんなイメージなんだろうな、と素直に思いました。
ただ、この作品で登場人物が動物であることを反映した描写はそれくらいです。動物たちの物語として描かれたこの作品はその実、どこまでも写実的に「人間の心」を描いた物語で、遊びもなければファンタジーもない、ただただ真面目な絵本です。うちの子供たちにも何度か読み聞かせているのですが、反応は微妙です。小さな子供にとっては面白みのない絵本なのかも知れません。
ですが、私はやはりこの絵本は小さな子供のための絵本であると思います。小さな子供のための絵本であると同時に、大人のための絵本でもあります。良い意味で時流から外れた、商売っけのない絵本です。でも――だからこそ、ぜひ手にとって読んでいただきたい、掛け値なしの名作絵本です。
HarperCollins
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