タイトル:Swimmy (日本語版タイトル:スイミー)
文/絵:Leo Lionni
原作出版国:USA
初版年月日:1963年3月
購入できる絵本の種類:ハードカバー/ペーパーバック →ショップで商品を確認

あらすじ

ひろい海のどこかに暮らす小さな魚たち。赤い魚たちのなかで一匹だけ真っ黒な魚がいた。名前はスイミー。ある日、大きな魚が仲間たちをぜんぶ飲み込んでしまった。一匹だけ残されたスイミーは海の底を泳ぎ、たくさんの美しいものを目にした。そして岩陰に自分とそっくりの小さな魚たちを見つけたスイミーが、大きな魚に負けないように考え出した方法とは――

レビュー

小学生の頃、国語の教科書で出会いました
きっと多くの方にとってそうであるように、私にとってこの作品は「英語の絵本」ではありませんでした。そればかりか「絵本」でさえありませんでした。小学校の頃、国語の教科書の中で出会ったこの作品は、ごんぎつねやかさじぞうと同じように私の中に入ってきた「物語」であり、もっと言えば初めて触れた「文学作品」のひとつでした。 

その頃から、私はこの作品が大好きでした。レオ・レオニの絵が好きでした。ストーリーが好きでした。そしていま思えば、谷川俊太郎さんの訳が大好きでした。子供だった私の心に刻み込まれた「スイミー」の冷たく、厳しく、だからこそ美しい世界観は、氏の訳に負うところが大きかったのではないかと思います。 

三十年の歳月を経て、私はようやく英語の絵本としてのこの作品と向き合いました。それはとりもなおさず、谷川俊太郎さんの名訳から離れ、レオ・レオニの原文に触れることに他なりませんでした。

谷川俊太郎さんの名訳から離れ、原文に触れたとき
“A happy school of little fish lived in a corner of the sea somewhere.”そうか……スイミーの冒頭は「メダカの学校」だったのか。「ドロップみたいな いわ」は、“suger-candy rocks”か。うなぎのくだりはあくまで原文に忠実な訳か……そんなことを思いながら、まるで小学校の頃の友人と語り合うように私は“Swimmy”を読みました。

もちろん、それは新鮮な体験でした。英文のリズムについても、この作品の「色」である清澄な世界観も、レオ・レオニの原文から充分に感じることができしました。けれども原文について、残念ながら私は公平な視点からレビューすることができません。この作品に関してだけは、どうしても邦語訳に戻ってしまうのです。

このサイトで邦語訳について語るのは趣旨が違うようにも思いますが、谷川俊太郎さんの訳はある意味で原文を超える魅力を持っていると思います。特に最後の一文。「あさの つめたい みずの なかを,ひるの かがやく ひかりの なかを, みんなは およぎ, おおきな さかなを おいだした。」この一文に無限の憧憬を感じてしまうのは、子供の頃の印象があるためばかりではないと思います。

たくさんの思い出がつまった作品に、きっとこれからも
今も子供たちの国語の教科書にはこの作品が載っているのだろうか――原文をはじめて読んだときの感想は、そんなとるに足りないものでした。冒頭に述べたとおり、この作品は私にとって「英語の絵本」ではありませんでした。そして何度も原文を読み返した今も、「英語の絵本」ではありません。“Swimmy”ではなく「スイミー」です。かけがえのないたったひとつの特別な物語です。

多くは書きませんが、この作品にはたくさんの思い出がつまっています。無垢だった小学生の私が、何の不安もなく友達と虫をとり、ビックリマンシールを交換しあって遊んでいた日々。あの頃の記憶とこの作品とがわかちがたく結びついて、もはや人生の一部として私という人間の中に刻みこまれているのです。

個人的な思い入ればかり書きつづってしまいましたが、この作品はきっとこれからも、多くの人にとって特別な作品であり続けるのでしょう。

Swimmy

Swimmy

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