タイトル:The Tale of Peter Rabbit (日本語版タイトル:ピーターラビットのおはなし)
文、絵:Beatrix Potter
原作出版国:England
初版年月日:1902年(月日は不明)
購入できる絵本の種類:ハードカバー/ペーパーバック →ショップで商品を確認

あらすじ

ある朝、うさぎのお母さんはパン屋に出かける前に子供たちに言いました。「外に出てもマックレガーさんのお庭に入ってはいけませんよ。あなたたちのお父さんはそこで事故にあってパイの具にされてしまったんですからね。」他の子供たちはお母さんの言いつけを守りましたが、ピーターはマックレガーさんのお庭に入ってしまいました。さっそくレタスをかじり、ラディッシュをかじるピーター。ところが庭仕事をしているマックレガーさんに見つかってしまい――追いかけるマックレガーさんと逃げるピーター。いたずらうさぎピーターのちょっと危険な大冒険。

レビュー

誰もが知ってる有名な絵本?
「ピーターラビットのおはなし」は、誰もがその名前を聞いたことがある有名な絵本だと思います。けれども、それがどんな物語かと聞かれて答えられる人は、それほど多くないのではないでしょうか。世界中で愛されているこの絵本は、あるいは日本ではそれほど読まれていないのではないかと思います。実のところ、私がこの絵本を初めて読んだのは、ごく最近でした。子供のころは素通りし、今になって「英語の絵本」としてはじめて手にとって読んだのです。

読んでみてびっくりしたのは、案外からしの効いたそのストーリーでした。母親のいましめを破って立ち入ってはならない場所に立ち入ったうさぎの大冒険、といえば聞こえはいいですが、冒頭で出てくるのは「あなたたちのお父さんはそこで事故にあってパイの具にされた(he was put in a pie)」という母親のショッキングなセリフです。事故にあって、というのはつまり……。絵本の中で、ピーターはマックレガーさんから逃げてガーデンを駆け回ります。つかまったらどうなるのか……この絵本の読み聞かせを受ける子供たちは、やはりそれをリアルに思い浮かべながら聞くのではないでしょうか。

かわいらしい絵柄の裏にひそむ厳しい現実。子供らしい追いかけっこの先に待ち受ける残酷な悲劇。この作品の世界的な人気の背景にそんなバックボーンを見てしまうのは、私がひねくれた人間である証拠のような気もしますが……。

繰り返し読むことでわかってくる本物の味
そんなうがった読み方しかできない私ですので、最初に読んだときはこの作品の魅力がよくわかりませんでした。読み聞かせを受ける我が子も、これは年齢もあるのでしょうが、はじめのうちは最後まで聞き通すことができませんでした。なぜこの絵本が百年以上にもわたって世界中で愛されているのだろう……そんな思いをいだきながら繰り返し読み続けるうち、ゆっくりとその理由が浮かび上がってきました。

この作品の一番の魅力は、主人公であるピーターの表情です。おいしそうにラディッシュをかじる表情、前足をあげて周囲の様子をうかがう表情、追いかけられて必死で逃げる表情、柵の下をくぐり抜けようとする表情……そのどれもがかわいらしく、それ以上に「リアル」なのです。ちょうど上手な似顔絵が、写真よりもはっきりとその人の顔の特徴を表現するように、この作品に描かれたピーターの絵は、うさぎという生き物のめまぐるしく変わる表情をとてもよくとらえていると感じるのです。

うさぎの親子の物語というファンタジーをベースに、うさぎという生き物の表情を的確に描いたリアルでかわいい絵。そしてそこにひと味加えられたピリッと辛い弱肉強食の掟。この繊細で複雑な味を味わうのは、子供には難しいようにも思えます。けれどもこの作品が世界中の子供たちに広く愛されているのなら、子供は大人が考える以上に、本物を本物と見抜く審美眼を持っているのかも知れません。

英国のカントリーの美しさをありありと写した作品
私は新婚旅行で湖水地方のヒルトップを訪れました。ピーターラビットの生みの親、ビアトリクス・ポターの生家であり、彼女の手によりピーターラビットという作品が生み出された場所です。残念ながらその場所を訪れたとき、私はまだ“The Tale of Peter Rabbit”という作品に触れたことはありませんでした。プランに組み込まれていた観光名所だから訪れた、というだけです。

そんな新婚旅行から何年も経ち、はじめてこの作品を読んだときに、ヒルトップを訪れたときの思い出が鮮やかによみがえりました。この絵本に描かれていたのは、私がやわらかな陽ざしの中に見たヒルトップの情景そのものでした。ヒルトップという場所は、観光地として有名になった今なお交通の便が悪い田舎の地で、それだけに自然の美しさがそのまま残された場所でもあります。そこはまさしく英国のカントリーで、ちょうど日本における奈良や京都のように、英国のみならず欧米の人たちにとっての心の故郷なのでしょう。

“The Tale of Peter Rabbit”という作品は、欧米の人たちの憧憬の中にある故郷の風景を描いたものなのではないでしょうか。それは私たち日本人にとっては遠い異国の光景であるため、我が子をはじめ日本の子供たちにとってはなかなか入ってきづらい作品であることも否めないように思います。でも、だからこそ私は自分の子供たちにこの作品の読み聞かせを続けたいと思います。それはこの作品が単に有名な英語の絵本であるということを超えて、世界には自分たちとは異なる文化が存在するということを彼らが認識するひとつの手がかりとなるように思うからです。

The Tale of Peter Rabbit
The Tale of Peter Rabbit

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Beatrix Potter
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