タイトル:All by Myself (日本語版 無し)
文/絵:Mercer Mayer
原作出版国:USA
初版年月日:2001年3月13日
購入できる絵本の種類:ペーパーバック/学校 →ショップで商品を確認

あらすじ

僕はひとりで起きられるよ。オーバーオールのボタンをとめられるよ。靴下もはけるし、靴もはけるよ。色々なことができるようになった主人公は、何でも自分でやろうとします。自転車に乗り、ぬいぐるみのクマにドリンクを飲ませ、小さな妹の面倒をみて……ときどき失敗しながらも、自分でやれることを一生懸命にやろうとする主人公“Little Critter”の一日の物語。

レビュー

みんな大好き「リトル・クリッターシリーズ」
この絵本はアメリカで大人気の「リトル・クリッター」を主人公とするシリーズの一冊です。……リトル・クリッター? ……大人気? という方がほとんどでしょう、そうでしょう。大人気といってもあくまでアメリカで大人気ということで、我が国での知名度は、日本語版が出版されていないことからも明らかです。 

この絵本を手にしてからもう何年にもなりますが、リトル・クリッターというのがいったい何なのか、私にもわかりません。絵本に描かれる主人公は手足に爪のはえた毛むくじゃらの生き物で、クマやビーバーなどの獣を彷彿とさせます(実際、同シリーズの別の絵本ではクマと一緒に遊んでいます)。“critter”という語を辞書で調べると「(米俗)[おどけて]生き物,動物(creature):ジーニアス英和辞典」とのことです。そして“critter”という語を画像検索で調べると……ちょっと閲覧注意に該当しますので自己責任で(苦笑)。

そのようなわけで、主人公の素性について謎は深まるばかりですが、そんな細かい事情をふっとばして突き抜けるほど、この絵本はとても魅力的なおすすめの作品なのです。

理由はよくわからないが男の子はハマる絵本
まず絵ですが、はっきり言ってかわいくないです。むしろ一歩進んで気持ち悪いと言った方がいいかも知れません。上記の注意を無視して画像検索してしまった方にはおわかりかと思いますが、どうやら主人公リトル・クリッターは化け物の範疇に属するもののようです。要は小さな怪物です。実際、絵もその通り、どこか気持ち悪い怪物としての主人公を描いています。

しかし、だがしかし、我が家のリトル・クリッター……もとい子供たちは、この気持ち悪い絵にどっぷりハマりました。初めて見た瞬間から大喜びで、毎晩のように読んで読んでとせがみます。他に好きだった絵本そっちのけで。そこで何となく私には、この絵本の人気のからくりがわかりました。

それは大人の目から見ると気持ち悪い絵なのに、子供(特に男の子)は大好き……そんな絵本に心当たりがあったからです。“The Very Hungry Caterpiller(はらぺこあおむし)”、“Where the Wild Things Are(かいじゅうたちのいるところ)”どちらも歴史に残る名作絵本ですが、絵は相当に気持ち悪いです。そしてどちらの作品についても、その絵の気持ち悪さ(というより独特さ)こそが強烈な魅力になっていると思います。この作品を上記の名作と並べるのはおこがましいかも知れませんが、理由はよくわからないけれども子供はハマる絵本という点で、それらは共通していると思うのです。

もちろん、“All by Myself”の絵もすばらしいものです。主人公が歯ブラシに歯磨き粉をつけているときの顔、靴をはこうとしているときの顔、どれも小生意気でこましゃっくれて、子供らしい自信にあふれた表情がとても魅力的に描かれています。それがわかるからこそ、子供たちはこの少し気持ち悪い絵に夢中になるのではないでしょうか。

“I can…”と再帰代名詞の下地はこの一冊でO.K.
そして何よりおすすめなのが、英語教材としてのこの絵本の完成度です。文章は最初から最後まで“I can…(僕は…できる)”の繰り返しで、しかも一文が短く簡潔でわかりやすいのです。この絵本の英文をインプットすれば、「~できます」系の基礎はしっかり固められると言っても過言ではないでしょう。

もうひとつ、“All by Myself”というタイトルにも、英語教材としてのすぐれた点があらわれています。私たち日本人にとってなじみの薄い再帰代名詞“oneself”です。これが、この絵本の強烈なインパクトとともに子供の頭にたたきこまれるのです。事実、うちの長男はこの作品の主人公のことを「おーばいませーふ」と呼んでいます。どうやらこの絵本のタイトルが主人公の名前だと間違って覚えたようなのですが、それはやはりこの絵本のインパクトあってのことだと思います。いずれ彼は、それが日本語としてはどうにも訳しようのない、我々とは違う言語特有の言い回しだと知ることでしょう。

理由はよくわからないけど男の子はハマる、英語教材としてはすばらしいなど、ともすればネガティブともとられかねないほめ文句を連ねてきましたが、我が子におとらず私自身もこの作品が大好きです。主人公リトル・クリッターが、なんだか憎めないんです。それってつまり、好きだってことなんですよね。現在、我が家の本棚には3冊のリトル・クリッターシリーズの絵本が並んでいます。この作品に続く別の2冊についても、追って紹介していきたいと思います。

All by Myself (Little Critter) (Look-Look)
Mercer Mayer
Random House Books for Young Readers (2001-03-13)
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