タイトル:The House (日本語版タイトル:百年の家)
文:Patrick Lewis
絵:Roberto Innocenti
原作出版国:USA
初版年月日:2009年7月15日
購入できる絵本の種類:ハードカバー →ショップで商品を確認

あらすじ

ペストが大流行した1656年に建てられた家は、長い歳月を経て住む人もなく荒れ果て、うち捨てられていた。1901年、その家は人々の手で建て直され、二度の世界大戦をふくむ激動の百年をともに生きることになった。人々の喜びと悲しみ、出会いと別れを見つめ続ける家は何を思い、何を残すのか。古い丘にはじまり、二十世紀を生きることになったある「家」の物語。

レビュー

精緻に描きこまれた心を打つ絵
書店で手にとって開いた瞬間、絵に一目惚れして購入を決めました。ただ万人受けする絵かといえば、そうではないようにも思います。絵柄は古めかしく、どちらかといえば暗めで、重い印象の写実的な絵です。

ただ細部にいたるまで丁寧に描きこまれたその絵に、作者のなみなみならぬ思い入れを感じました。まるで魂を注ぎこんだ……などといえば言い過ぎかも知れませんが、私は強く打たれるものがありました。

英文の難易度は高く、児童書の文章というより詩のような趣を感じます。そしてその格調高い英文は、精緻に描きこまれた絵にとてもよく合っています。

ミニマムな視点でとらえた激動の二十世紀
見開き2ページにわたって描かれた絵と、同じく見開きで書かれた文章。廃屋だった家を子供たちが見つけた1900年を皮切りに、1901年、1915年、1916年、1918年……と、歳月を経るごとに移り変わってゆく家とそこに住む人々の姿を、一組の絵と文章で描き出す構成となっています。

見開きの絵は、カメラを固定してひとつの風景を撮り続けるように、どの時代の絵も同じ視点で、同じひろがりの「家」を切り出しています。そして文章は、その家に住まう人々を「家」の視点から見たものとなっています。「家」に住む娘の結婚、子供の誕生、戦争、夫の死、子供との別れ、そしてかつて娘だった母親自身の死――そのすべてを「家」は冷静に見つめ、淡々と語ります。

そんなミニマムな視点で激動の二十世紀を描いたとき、かえってはっきりと見えてくるものがあります。ありきたりな反戦をうったえるものでも、教訓を植えつけようとするものでもなく、ただ誠実に二十世紀というひとつの時代を描いた作品。何度も繰り返し読んだ今、私はこの作品にそんな感想を持っています。

後生に残したい珠玉の作品
私の家の本棚には、私が親に買ってもらった絵本が何冊もならんでいます。それは実家に保管してあったのを、私に子供ができたときに親から譲り受けたものです。そんな絵本を子供に読み聞かせるとき、子供だった自分が親から読み聞かせられたときのことを思い出します。そして三十年という年月を経て今なお色あせない作品に、感動と尊敬を覚えます。

この“The House”という絵本は、そうして読み継がれていくべき作品ではないかと思うのです。子供の子供にも、さらにその先にもずっと読み継いでほしい。私のつたない言葉でこの作品の魅力をどこまでお伝えできたかわかりませんが、私はこの作品にそうした価値を感じました。

今はきょとんとした顔をしてこの絵本の読み聞かせを受けている我が子が、この作品に秘められた本当のすばらしさを知るのは、まだずっと先の話かも知れませんが……。

The House
The House
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J. Patrick Lewis
Creative Editions
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