タイトル:THE PRINCESS WHO HAD NO FORTUNE (日本語版タイトル:お金のない王女のおはなし)
文:Ursula Jones
絵:Sarah Gibb
原作出版国:USA
初版年月日:2014年10月2日
購入できる絵本の種類:ハードカバー/ペーパーバック →ショップで商品を確認

あらすじ

丘の上のお城に住むお姫さまにはお金がありません。お城は雨漏り、朝食のトーストもない、なのに王さまは空を飛ぶ機械を発明するためにお金を使ってばかり。そんなお姫さまのもとに隣の国の王子さまから手紙が届きます。「土曜日の舞踏会にお越しください。王子がお妃を選びます。」お姫さまはそんなことより土曜日の午後、王さまのテスト飛行を見にくる国の者をどうやっておもてなしするかお悩みです。「準備ができるかどうか、あなたとわたし次第ね」ねこのジェフリーにそう言って準備にとりかかるお姫さまのもとに、一人の若い庭師が現れて――

レビュー

華麗で美しい絵に魅了されて
この絵本の魅力は絵の美しさにあります。私は書店で表紙の絵を目にした瞬間、購入を決めました。切り絵のように見えるその絵が、実際にどのような技法で描かれたものなのかわかりません。ただ、その華奢で優美な絵は、ちょっと他ではお目にかかれないものだと思います。

その絵に、私は子供の頃に読んだ藤城清治氏の『銀河鉄道の夜』を思い出しました。切り絵の美しさとしては、これも他に類を見ない作品です。ちょうどこの『銀河鉄道の夜』の切り絵がまとう感傷と不思議さを、華奢な美しさとソフィスティケーションに置き換えたものが、“THE PRINCESS WHO HAD NO FORTUNE”の絵のイメージだと感じました。

……と、絵ばかり褒めていますが、この作品は絵だけでなく、物語も独特で面白いんです。

コミカルで逆説的な現代のシンデレラストーリー
現代のプリンセスストーリー」と評されることの多いこの作品ですが、私はこの作品を「現代のシンデレラストーリー」だと思います。シンデレラは一人ではありません。二人いるのです。一人はもちろんお金のないお姫さま。そしてもうひとりは、少しネタばれになってしまいますが、庭師に身をやつして登場する王子さまです。

この作品に登場する王子さまは完璧超人ではありません。庭師として登場した彼は失敗ばかりで、お姫さまにもあきれられてしまうほどです。それでも次第に二人がひかれあう中で王子さまは本物の王子さまに、お姫さまは本当のお姫さまになってゆく。――そんな逆説的なシンデレラストーリーとして、私はこの作品を読みました。

文章は長く、英文にはまわりくどいところもあります。しかしそのあたりも、まわりまわってハッピーエンドに行き着くこの物語の魅力となっている気がします。特にクライマックスでの王子の長台詞は最初どう訳したものやらと悩んだものですが、このあたりはぜひとも読んでたしかめてください。

我が家に女の子がいれば読ませたかった作品
この作品を読み終えて最初の感想は、うちにも女の子がいたらなあ、でした(うちは男の子二人です)。綺麗な絵が楽しいらしく、うちの男の子たちもこの絵本を気に入っています。しかし、うちに女の子がいて、その子にこんな絵本を読み聞かせられたら……と、そんなことを考えてしまったり。

“The Princess and the Pea”を読んだときにも同じことを感じました。この絵本については小さな女の子のいる友人に押しつけがましくプレゼントまでしまして。……何なんでしょうね、この感覚。女の子に、お姫さまの絵本の読み聞かせをすることに、強い憧れを覚える今日この頃です。

私の果たせない夢を叶えてほしい……というわけではありませんが、小さな女の子のいる方、この絵本どうですか?

The Princess Who Had No Fortune
The Princess Who Had No Fortune

posted with amazlet at 16.06.26
Ursula Jones
Orchard Books
売り上げランキング: 264,474