タイトル:Welcome Back Sun (日本語版 無し)
文/絵:Michael Emberley
原作出版国:USA
初版年月日:1993年10月
購入できる絵本の種類:ペーパーバック/図書館 →ショップで商品を確認

あらすじ

ノルウェイには“murketiden”と呼ばれる季節があります。この季節には太陽が昇らず、真っ暗な毎日を過ごさなければいけません。私はこの季節が嫌いです。ずっと昔、はじめて太陽がいなくなったとき、太陽の光を待ちきれなくなった少女が高い山に登り、山頂の向こうについに太陽を見つけたという話をお母さんから聞いた私は、同じように山に登りたくてたまらなくなりました。「待っていれば太陽は戻ってくるよ」とお父さんは言います。でも私は太陽の光が待ち遠しくてならないのです――

レビュー

北欧の自然とそこに暮らす人々のドキュメンタリー
北欧はノルウェイの小さな村に、一日中太陽が昇らない季節を過ごす人々の姿を描いた作品です。派手な要素はありません。絵本につきもののファンタジーもなければ、どきどきするような展開もありません。あるのはただひたむきに夜明け前を生きる人々の、あるがままの姿です。絵本というより、挿絵のあるドキュメンタリー作品と言った方がいいかも知れません。 

そんな作品の内容にふさわしく、素朴でやわらかな絵と、飾り気のない真面目な文章がこの絵本の特徴です。“murketiden”についての説明から入る冒頭はだいぶ暗く、憂鬱をにじませた文と絵により常闇の日々に耐える人々の暮らしぶりが描かれています。やがて太陽が戻ってくる「その日」が近づくにつれ村が活気づき、お祭り騒ぎのような感じになってきます。 

そして物語のクライマックスで、人々が太陽を迎える場面は、ためいきをつきたくなるほど感動的なのです。

太陽を渇望する少女の想い、太陽を迎える人々の想い
白夜について、おそらく多くの人が中学校の社会で習ったのではないかと思います。一日中太陽が昇ったままになるその日と、逆にずっと太陽が顔を出さなくなる季節があるということを勉強した人も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。けれどもそこで習ったのはあくまで地理学的な知識であり、そこに住む人々がどのような想いをもってその季節を過ごし、どのような想いで生きているのかについては想像もしませんでした。

冒頭、太陽を渇望する主人公の女の子の想いは真に迫るものがあります。絵本では太陽を望む女の子の想いに、“hungry”という表現が使われています。まさしく「飢えている」です。その想いは、遠い昔に太陽の光を求めて最も高い山に登ったという少女の伝説と重なります。少女と同じように山に登ることを願いながら、主人公の女の子は山に登りません。けれども久しぶりに太陽を迎える日、お父さんやお母さんや多くの人々と一緒にはじめて山にのぼり、かなたからこなたへ大地を照らす「戻ってきた太陽」の光を目にするのです。

地味だけど、ぜひ手に取ってほしい作品
はっきり言って地味な絵本です。繰り返しになりますが、ファンタジーもなければ、どきどきするような展開もありません。ちょうどNational Geographic Channelのドキュメンタリー番組のような真面目で飾り気のない作品です。でも、その地味で真面目なところが魅力の、とても興味深い作品なんです。

こうした英語の絵本を本棚に並べられることに、私は幸せを感じます。インターネットという環境がなければ、私はこの絵本の存在を知ることすらできなかったと思います。読み聞かせには少し不向きな作品だと思いますが色々と工夫して、子供たちにもぜひこの絵本を好きになってもらいたいです。もちろん、この記事をここまで読んでくださった皆さんにも。

Welcome Back Sun

Welcome Back Sun

posted with amazlet at 16.07.05
Michael Emberley
Little Brown & Co (Juv)